ファジーネーブル

その曖昧さを検索したい

Space Designer・イコライザー・ギターソロ

ギターソロのための試行錯誤

「ギターソロを入れたい」という思いがまずあった。
今回は、そのために、楽曲構成をあらためて考える時間が長かった。

最初はアウトロにソロをいれようと目論でいた。
サビとかAメロとかがはっきりしない曲であり、いずれにせよ取ってつけたようなカタチになると思ったので、むしろ取ってつけた感を活かそうと考えていた。一方で曲が短く、盛り上がりのピークが来ていないままギターソロのアウトロで終わって良いのか、という懸念があった。

ギターソロで転調することも構想していた。
しかし、歌メロに伴うコードの転調ならまだしも、ギターソロだけ転調するとなると、どこからどう考えて良いのかもわかっていなかった。

煮詰まってきたので結局、主旋律のシンセと装飾音を抜かした、ヴァースと同じトラックをアウトロにもう一度くっつけるところからステップを踏み出した。主旋律だけでなく、なぜ装飾の和音を取り除いたかと言えば、歌メロと同じようなソロを奏でたくなかったからだ。転調の仕方は分からなくても、リズムのみに影響されて自由にソロを発想できるようにしたかった。


ソロに入るときのドラムパターンは自分なりに工夫した。既存のフィルでは、Apple Loopsそのままだったが、今回はそのWAV音源のリージョンを分割し、必要な部分だけ組み合わせた。八分のスネアで、ダンスビートに敢えてブレーキをかけた。1:17辺りだ。


ソロのバックトラックを用意したところで、むくむくと浮かんできたのは、ソロの後にもう一回歌で盛り上がれる風にしても自然だな。という気づきだった。音にしてみないとわからないものだ。音にしてみるだけで進むのだ。なるほどDTMはおもしろい。ソロの後にもう一度主旋律を繰り返し、これで構成の大枠は決まった。

Space Designer

その他のトラックにおいては、地味ながらそれなりに調整を加えた。
目立ったところで言えば、主旋律にオクターブ上のパートを追加。そして、マスタートラックにかけたSpace Designerだ。

聞きかじりの知識によるとSpace Designerはその名の通りスペース、つまり空間をデザインするリバーブだ。Space Designerのプリセットを見ると本当に多種多様な場所が用意されている。Large、Medium、SmallそれぞれのサイズのRooms、Halls、テレビスタジオ、ジャズクラブ、ストリート、森、トンネル。マスタートラックにかけることで、指定した空間で演奏しているような空気感をリバーブによって再現してくれる。今回も、Space Designerをかけるだけで、ひとまずそれなりの雰囲気が出来てくれたような気がする。

イコライザー

他には、スネアのリズムを強調するために、同じタイミングで、別の音源でスネアを鳴らした。いい加減音数が気になってきたので、各トラックの音量は聴く度に調整した。PANも少しずつ変えた。団子のような音から少しだけ距離を取ることができた気がする。基本的に音量は絞る方向で、PANは散らす方向で。

そして今回初めて各トラックのイコライザーを調整した。大胆なことや、技巧的なことはしていない。音源毎の交通整理のみを心がけ、気になったトラックの周波数の最も高い部分と最も低い部分を削った。

 

 

所感と次回

ものになっている自信は無かったが、過去にDTMで試行錯誤したことが、今回のアルバム制作プロジェクトで生きていることがわかってきた。Space Designerもイコライザーも触った経験があって良かった。以前は場当たり的にググってやり方を調べ、正解がわからないまま時間をかけてきた気がする。今回はググらずともベースの知識はあった。また、どツボにはまった経験から、直感的な決断や、引きどころの見極めが上手くなっている。もちろん、それと楽曲の良し悪しは別だが、この快適な楽曲制作のリズムを信じていれば、着地点も良いものになる気配を感じている。そういえば、リスナーとしての経験値も、数年前とはわりと違う。その点も今回のスムーズさに寄与しているかもしれない。次回は、いよいよギターソロを録る。何パターンか録って、SoundCloudで比較してみようかしら。

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ブリッジから盛り上げてもう一度ヴァース

今回は以下の編曲/作曲を進めた。

①ヴァースの伴奏にピアノを入れてメリハリをつける
②主旋律のシンセの音色を変更
③主旋律にハモりをつける
④イントロに色付け
⑤ブレイクの後、もう一度ヴァース
⑥二度目のヴァースではシンセのベースラインを追加
⑦ブリッジを作曲
⑧ブリッジ後にもう一度ヴァース

 

 

 


実は最初は、頭でイメージしていたルート音となるベースを各小節の頭に打ち込んでみた。しかし、どうもしっくりこない。考えてみればこの曲は、コードが決まっていなかった。

習慣上、大半の作曲はアコースティックギターでやる。まずメロディや言葉の断片があって、それにコードをつけて曲らしきものにする。高校生の頃から、私の作曲は常にその形で行われ、弾き語りのワンコーラスにはそれなりのストックがある。コードをつけることは技術を要さないため、何よりも得意だったと思っている。

しかしそれができたのは、曲がいわゆるロックやJポップの延長の、歌ありきの場合であって、気まぐれで今回のようにエレクトロな曲にトライすると、十中八九コード進行に苦難する。そもそもこういった曲にコード進行という概念があるのかどうかも不確かである。

そんなこんなで、ルート音は見つかることなく、断念した。

 

リズミカルなピアノ伴奏

気を持ち直して、伴奏を厚くするために、Apple Loops からピアノ音源を探した。エレクトロな曲だからこそレガシーな楽器を鳴らしておきたいと思っていた。「Latin Lounge Piano 07」といういい具合にリズミカルなフレーズがあったのでパンで大きく左に振って、ほぼ常時鳴らしている。

 

シンセの音色変更

次に主旋律のシンセを「British Combo Synth Lead」から「Anthemic Sync Lead」へ変更した。これは何となくである。ちなみに主旋律と言うからには、ボーカルに置き換える構想もある。

 

ハモりで重厚感

そして上五度と下三度でハモらせた。ハーモニーというよりも、重厚感、ちょっとした合唱感を出したいと思っている。音量は絞っているが、ボーカルに置き換えるときは、ドンと前に出すはず。

 

イントロでPadをつかう

曲の始まり方と終わり方はまだイメージできていないが、とりあえずのイントロにも一手間かけた。ヴァースのメロディをPadでぼやかしている。

 

80sのベースライン

ヴァースの主旋律は前回サッと浮かんだが、曲展開の構想は未だ無かった。この曲のターニングポイントになりそうだったので、無理せず思い浮かぶのを待った。何もまとまらないままLogicに向き合ったところで、次の三点のアプローチで意外と行けそうな気がもりもり湧いてきたので実践。ひとつは、とりあえず一度曲を静かにしたかった。もうひとつはそこでベースを差し込んでいく、そしてベースを交えてもう一度ヴァースを繰り返す。

どう聴こえるかイメージできていなかったので、イメージ通りとはいかないが、思ったより良かった。というかこれしか無い、ってくらいしっくりきた。これだから曲作りは面白い。

当初ベースラインはプログレ的な歪みのロックベースをイメージしていたが、「80s Dance Bass Synth」という素材が思いの外はまったので、採用。転換ポイントではドラムのフィルも入れてみた。少しうるさいかもしれない。

 

ブリッジを考える

そしてブリッジがくる。これをブリッジと言ってよいかはわからないが、コーラスでは無い気がする。ボーカルに変換したら複数メンバーの掛け合いになるようなイメージで、ヴァースのメロと同じ「Anthemic Sync Lead」で打ち込む。ちょっとワケが分からない感じがあるが、個人的にはメリハリがついて面白いと思っている。そしてブリッジが盛り上がる勢いに乗ってもう一度ヴァースを。

 

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以上、今週末の進捗。
各トラックの音量やパンはその都度、気になった所を調整している。またプロジェクトのキーがCだったので、Apple Loops を足していく前にE♭に変更した。E♭で多分正解。

現時点でやけに曲が短いが、バンドのテーマ曲なので短いくらいが丁度よいと思っている。今後展開を加えるとしても、大きく印象を変える方向には持っていかないつもりだ。

あとは、小物のフィルやフレーズ、オブリガードを邪魔にならないように適度につけ足したい。そしてすでに邪魔な音は、勇気を出してデリートしていかなければならない。ついついおざなりにしてしまいがちな部分だ。ベロシティやエフェクト、ノード長の調整は全くやっていない。こちらも妥協無き姿勢が大切。難しい段階に入ってきた。

唯一の楽しみはギターだ。この曲で、ギターのライン録音も再勉強したい。どんなギターを弾くべきか。考えることが楽しい。そんなこと言ってられるのも今のうちだけかもしれないけど。

 

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メロディをMIDIで打ち込んでみる

メロディの作曲

メロディをつくってみた。
「明日は作曲を進めよう」そう思ってベッドに入った夜の矢先、とあるくだらない歌詞とともにメロディが頭に浮かんだ。

ブロッコリーズのテーマ』の次の一手を模索している最中だったから、がんばって起き上がってiPhoneのMusic Memosにアカペラで吹き込んだ。

それをMIDIに起こして、トラックに当てはめた。

 

 


EDMのように、リズムトラックを積み重ねてビートを加速させていくのではなく、あくまでロックの文脈でリフを創ろうと意図している。ちなみにキーについてはひとまず考えていない。

 

メロディの打ち込み

それにしても打ち込みは難しい。こんな短いメロディなのにとても時間がかかった。MIDIキーボードがないからだろうか。Logicの「ミュージックタイピング」でリアルタイム入力も考えたが、歌えても咄嗟にはどの音を歌っているのか分かっていないので、鍵盤での再現に時間がかかってしまい、やめた。打ち込みは「鉛筆ツール」でノードを置き、「ポインタツール」で引き伸ばしたり、ドラッグ・アンド・ドロップで移動させるなどして地道にやった。他にどんな方法があるのかあまりわかっていない。打ち込みスピードを上げる練習やその効率化の研究は、楽器の練習に比べてどうも気が乗らないが、みんなどうやっているのだろうか。

 

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ソフトウェア音源は、「British Combo Synth Lead」を選んだ。こちらも正解がわからないため仮である。ベロシティもオートメーションも調整なし。サスティンも適当に。
MIDIを打ち込む作業をしたときの音源は「Classic Electric Piano」である。この音源は、ソフトウェア音源のトラックを追加した際に最初から選択されているものだが、妙にこもった音なのでこの音源で今後も打ち込むべきなのか考える必要があるかもしれない。


そして、前回12小節に増やしたヴァースだが、このメロディでは8小節しか使わなかった。ヴァースを削るか、メロディを追加するか。結論は先送りにし、余った4小節分のトラックは残しておくとする。


この段階でメロディに着手した理由を簡単に言えば、コードやベースラインをカスタムしていくことで主旋律の条件が規定されていくのを避けるためだ。この懸念については、Apple Loopsにチャレンジした前回の記事でも書いている。そんな懸念もあるいは、ただの杞憂なのかもしれない。もしくは、スキルに応じてケースバイケースかもしれない。いずれにせよ、それらに対する自分なりの回答はDTMを続けることで見つけていきたい。

次回は、コーラスへ展開させようか。それともヴァースに肉付けをしていこうか。

 

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Apple Loopsを使ってみる

DAWによる作曲の初手

 ギターやピアノ、あるいは脳内で曲が形になっていない状態からDAWによる作曲を行うなら、曲の構成について早い段階から考えておく必要があるかもしれない。

ヴァースは何小節で構成されるのか。
ヴァース内のフレーズは何小節でループするのか。

自ずとリズムパターンが土台になってくる。
リズムパターンを用意する際は、リフの最小単位だけ準備するのか、ヴァース全体の枠を決めるか、ワンコーラス最後までつくってしまうか、と言った決断が行われる。

これらはいわば作曲の初手だ。
決断と言うと大げさに聴こえるが、意外にもこういうところでその後の発想の多くを規定してしまうことを忘れずにいたい。


今回も特にアイデアはない状態だが、なんとなく持っていきたい方向を意識しつつ、Logicのテンプレートでは4小節だったヴァースを12小節に拡張してみた。また、テンポを128から143に上げてみる。バンドのテーマ曲だから、アップテンポでキャッチーなリフが欲しなあとイメージしている。

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Logic Apple Loops

 さて、次はどうするか。
本当はギターを弾きたいところだが本命はあとにとっておく。録音スキルにも課題があるので、ここで詰まるわけにもいかないという事情もある。

ベースはどうか。
ベースはとりわけ楽曲の印象を決定づける楽器だと思っている。先にベースラインを決めてしまうと、そのベースラインの引力に作曲の自由意志が負けてしまう可能性がある。

ならば、シンセでいこう。
最終的にギターで代替することも念頭に置き、自由に取り外しができてフットワークの軽いシンセサイザーにアプローチしてみる。

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というわけで、Apple Loopsから以下の二つのシンセサイザーを貼り付けてみた。

・Euro Slicer Synth 01
・Remix Slicer Synth 02

パンは均等に左右に振った。

 

 

 

なるほどサマになっている。
Apple Loopsすごい。汎用性の高い音源ばかり揃っている上に、キーとテンポは自動で調整されるので、ほとんどの組み合わせがそれらしい響きを奏でる。


しかしながら、このクオリティは私たちアマチュア楽家にとって諸刃の剣だろう。先述のように、トラックを固めていくと、知らず知らずのうちに曲のイメージが規定されていく。Apple Loopsをつかえばそれっぽい格好良さは維持されるが、オリジナルとして打ち出せる歌そのものやフレーズを、その後の何処かの段階で求められることには変わりない。その際、Apple Loopsで固められた格好良いトラックが、オリジナルフレーズのリズム、ハーモニー、音域、帯域の条件を狭めてくる可能性は大いにある。トラック固めが手軽な分、自由度が狭まるスピードも早い。あなたのオリジナリティは、Appleの優秀な音源に溶け込みつつ、その中で輝かなければならない。


そんなことを考えながら、次の一手を探してみよう。

 

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バンド名決まる

Logicのテンプレート

早速だがバンド名を決めた。

ザ・ブロッコリーズだ。

バンド名は、メンバーがイケメンであることが一発で伝わるものでなければならない。ブロッコリーズと聞いたら、繊細で中性的な黒髪のボーカリストや、お茶目な一面もありつつレディースの服を着こなす美意識の高いドラマー、寡黙で長身の技巧派でありながら天然発言で会場を沸かすギタリスト、ヤンチャなルックスに隠れたバンド随一の気使いベーシストの顔が浮かんでくると思う。


善は急げ。
かっこいいバンド名を決めたら、このプロジェクトが嘘っぱちだと疑われる前に曲をつくるのだ。

まずはLogicProXで、ブロッコリーズの記念すべき最初の曲のプロジェクトを作成した。むろん曲名は、『ブロッコリーズのテーマ』だ。

 


Logicには用意されたテンプレートがいくつかある。そのうちののひとつを読み込んだ。テンプレートは以下の5種類だ。

・ヒップホップ
・エレクトロニック
・ソングライター
・マルチトラック
・空のプロジェクト

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今回はエレクトロニックを選択した。
テンプレートを選ぶ際に、テンポ、キー、拍子などを設定することができるのはとても便利だ。しかし、構想がはっきりしている場合を除いて、この段階でこれらを決定するのは無理だと思う。
というわけで詳細設定はそのままにプロジェクトを作成した。

 

LogicからSoundCloud

ちなみに、SoundCloudにはLogicから直接アップロードしている。
今回のようにインターネットでのシェアを前提として曲を作っている場合や、デモ音源のシェアを行いたい場合はとても便利である。私も今回はじめてやってみた。
「 ファイル > 共有 > 曲を SoundCloud に... > (SoundCloudのウインドウが表示されるのでログインする) > (Logicに戻り曲タイトルなどを入力) > 共有 」の手順で行える。

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次回はこの「エレクトロニック」と題された雛形をどう料理していくか。それを追ってみよう。

 

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アルバム制作プロジェクト

突然だがアルバムをつくりたいと思う。
理由は簡単だ。
私はプロのミュージシャンではないけれど、プロのミュージシャンみたいにアルバムをつくりたくなった。パッケージとして残るものを。

作品が後世に残るものかどうかは後世が決める。作品でお金をとるかどうかはリスナーが決める。作品を流通させるかどうかは誰かが決める。作品を残すことは自分が決める。

アルバムはある種の自伝である。自分の聴いてきた音楽や、過去の記憶が刻まれた自分らしいものをつくりたい。一方で欲もある。良い音楽だと思われたいし、すごいと思われたい。自分らしいものが自ずとインパクトに繋がれば良いけれど、そうなるかは完成してみたところでわからない。

 


このドキュメンタリーをはじめるまえに、少しだけ、土台となる状況を振り返っておく。

 

まず第一に、ちょっとしたギターリフや、コード、メロディ、歌詞の組み合わせはすでにたくさんのストックがある。その一部はフルコーラスの弾き語りで歌える。

第二に、DAWはLogicProXを使用する。しかし経験は浅い。打ち込み、ギター録音、ボーカル録音、ミックスまでやりきった曲は3曲、初音ミクを含めれば9曲である。

課題はDTMに多い。
Logicを使いこなせていない。オーディオインターフェースコンデンサーマイクは持っているがMIDIキーボードは持っていない。ループ音源とエフェクトを持て余し、イコライジングでドツボにはまる。

録音は特に苦手かもしれない。
練習が不十分なのに、RECボタンを押せば奇跡の名演ができると思っている。リテイクを繰り返す。そしてディレクションが出来ない。すごく良い気もするし、すごくだめな気もする。一晩寝てもわからない。モニタリングやクリックとの付き合い方も毎回手探り。マイキング、ノイズ対策、入力レベルでは決め手に欠ける調整を繰り返し、よくわからないままベストを尽くしたことにする。

そもそも、一時はDTMに積極的にトライしていたが、次第に奥が深すぎるこの世界に慄き、弾き語りをレコーダーに吹き込むだけの日々に帰ってきてしまった。

 


このブログに、アルバムをつくる過程を書いてみたい。デモトラックから思考の整理まで、勉強したことから実践したことまで載せてみたい。これまでの私は、スタート地点からの足跡を見失うことで、スタート地点で抱いたモチベーションまで見失ってしまうことが多かった。ブログを足跡にして丁寧に進めよう。音楽が完成する前から、足跡それ自体をコンテンツにできるのもブログの良さである。

さて、このプロジェクトは一番はじめにお楽しみが待っている。それはバンド名を決めることだ。

2010年、8ヶ月の夢とゲンロン0

「先輩。4月からエロゲの先生がくるらしいっすよ」
「エ、エロゲの先生?」
東浩紀っていうんですけど。エロゲに詳しいオタクらしいっす」
それってただのエロゲに詳しいオタクじゃないのか。

2010年3月。学部の後輩があることを教えてくれた。
それは4月から私たちの学部に新しい教授が赴任するという情報だった。
教授の人事なんてよくあることだった。
しかし私たちの関心を惹きつけたのは、その教授がエロゲに詳しいオタクであるということだった。

2010年4月、学部の四年生になった私は就職活動をしていなかった。
昔から音楽と小説が好きで、例によって大学生になってからはアニメを見て、ニコニコ動画を見て、初音ミクを聴いた。エロの有無を問わず、サウンドノベルに夢中になった。

私の大学入学は2007年春。ニコニコ動画の誕生は2006年末。細田守の『時をかける少女』は2006年。アニメの『涼宮ハルヒの憂鬱』と『ひぐらしのなく頃に』が2006年。新海誠の『秒速5センチメートル』は2007年。アニメの『CLANNAD』は2007年。初音ミクは2007年。そういう時代だった。

後輩のアドバイスに従って、私はエロゲの先生の授業を履修した。授業は『WEB文化論』と言った。学部で一番の大教室だった。教室に入って来た東浩紀を初めてみたときのことは鮮明に覚えている。

最初、その男はTA(ティーチングアシスタント)に見えた。やけに若く、もっさりしており、垢抜けてない。冴えない大学院生だなと思った。太っているところも、いかにも冴えない大学院生であり、歩き方もオタクみたいだった。そのとき私は大切なことを忘れていた。私は「エロゲに詳しいオタク」の授業を受けようとしていたのだ。

広すぎる教壇に立ったTAは高い声で自己紹介をはじめた。TAなのに自己紹介するのか。このTAは東浩紀の専属の弟子なのかもしれない。

彼が東浩紀自身であることに自己紹介の途中で気がついてから、私がどのようにして東浩紀にはまったのかは不思議なことに覚えていない。

5月、私はTwitterをはじめた。『クォンタム・ファミリーズ』は三島由紀夫賞を受賞し、受賞後の授業では東浩紀を拍手で迎えた。7月、発売したばかりのiPhone4を買った。WebブラウザをGoogleChromeに変え、ライフハッカーやギズモードを読んでブックマークを効率的に同期したり、iPhoneでブログを書いたりした。6月頃、高田馬場に住む宇野常寛をWEB文化論のゲスト講師として東浩紀は迎えた。ある学生のカンニングが、Twitter経由で東浩紀本人にバレた。ニコ生のアーカイブを見て、突発的なUstreamを見た。『ised 情報社会の倫理と設計』の発売記念イベントが大学で行われた。津田大介の金髪を見た。すべてのキッカケは東浩紀だった。夏にはほとんどの著作を読んでいた。私は相変わらず就職活動をしていなかった。一方で『コンテクチュアズ友の会』が発足し、東浩紀に軍資金がリアルタイムで集まっていく様を私はTwitterで見ていた。ネットでのPR活動だけで。

東浩紀とは体験である。当時、同じ体験をした人がたくさんいたと思う。
結果的に当時の私が必要としていた人生への打開策を東浩紀はもたらさなかった。それは当然だ。私は東浩紀に打開策を求めていたけど、彼はもっと素晴らしいものをくれた。それはありふれた体験だ。だけど、ある時代にある年齢でしか出会うことのできない体験だ。

秋、私は相変わらず就職活動をしていなかった。東浩紀以外の書籍も熱心に読んでいた。進学するつもりは全くなく、実家の世話になるつもりもなかった。Twitterは板についてきた。依然おもしろい時期だった。尖閣諸島問題が起きた。12月に発売される『思想地図β vol.1』に向け、界隈の盛り上がりはピークに達していた。それはシーンというやつだった。この頃FaceBookに登録したが、いまもそれは使っていない。

12月、私は卒論を仕上げて『侵略!イカ娘』のエンディングテーマと『思想地図β vol.1(ショッピング/パターン)』を買った。12月23日、青山ブックセンター本店で行われた象徴的なイベント「2010年代の言論空間 思想地図β創刊記念with早稲田文学×PLANETS」に出向いた。壇上のスターたちにサインや握手を求める学生や、卒論を渡す学生がいた。彼らは東浩紀に認知された。私はただその場にいた。面識はなかったが彼らは大学の同級生だった。私の就職は決まっていなかった。それなのに2010年は、なんて素晴らしいのだろうと思った。


2011年4月。結果として私は就職した。リーマンショックの影響が最も出た年であり、就職率は谷底だった。3月には忘れもしない大震災があった。『魔法少女まどか☆マギカ』が放映されていたがピンときていなかった。


この記事は2010年について語っている。2011年は重要な年だが、2010年は大切な年だ。2011年を起点にTwitter東浩紀も私も変わった。一般発売された『ゲンロン0』を読んだ。最高傑作だった。2010年4月から12月23日まで私が見続けた8ヶ月の夢は、2011年になって弾けたはずなのに、『ゲンロン0』で生きている。私は、私の人生を打開しない東浩紀を、これからも必要とする。

 

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